Listen To The Music

2020年6月16日火曜日

よしなしごと


わたしが、初めて
じぶんの意思で選んで、
買ってもらった曲は、
ちあきなおみの『喝采』でした。

祖母と2人でお出かけして、
レコード屋さんに入ったんだったかな。
でなきゃ、
好きなものを買ってあげる、と言われて
本以外を欲することは考えにくい。

まあ、その辺りは忘れましたが、
とにかく、レコードを一枚、
選択する局面がやってきて、
小さな孫娘に、
「かっさい。」
言われた祖母の動揺は、
如何なるものだったか。

「大人が聞く曲やで?」
「ホンマにソレか?」
と、何度も確認され、買って帰って。
歌詞カード(ジャケットの裏)の漢字は
読めたのか、わたし。
祖母がひとつずつ読んでくれて、
最後の方の、

 祈る言葉さえ なくしてた

の、「なくしてた」の心象風景を
説明するのに、エラいナンギしてはって、
(わかってるのにな…)と思いながら
うなずいていた、自分ちのステレオの
前を覚えています。

ドラマティック歌謡、と言うそうで、
ものすごい物語性と説得力。
色んな人がカバーしてますが、
わたしの中では、ちあきなおみ
以外の歌い手は考えられない。

最初のタイトルは『幕が上がる』
だったと大人になってから知りました。
いや、『喝采』で。と言い通したのは
作詞家ご本人だったそうですが、
全歌詞中、ひと言も出て来ないその言葉を
タイトルに据えた、そのセンス。
もう、お見事、というほかありません。



欲しくて欲しくて、欲しくて。
じぶんのお金で買った、初めての曲は、
原田真二の『タイム・トラベル』。

可愛らしい外見も、もちろん好きでしたが、
なによりなにより、
「なんだー!こんな曲、聞いたことない!」
な、展開の曲。
作詞はヒットメーカー、松本隆。

にも関わらず、
なのかどうかは分かんないけど、
とにかく聞いたことない構成、
落ち着かないのに、ハマれば最後。
イントロから、こんなカッコいいの
一音たりとも聞き逃したくない、て
今も思います。


2011年にスピッツがカバーしてますね。

ピアノ弾き語り、てのもまた、
カッコよかったんだよなあ…
思春期の入り口にいたわたしは、
ナマイキにも、
「才能って、ひとをこんなにも
 魅力的に見せるのか。」と
思いました。


これらの曲は、全て「レコード」で
聴いてました。
傷がついたら音が飛んじゃう、
だからとても丁寧に扱わないといけないし、
どこででも聴ける訳じゃない。
ホント不便でした。

今、世界中の色んなひとの奏でる音楽を、
ほぼ、どこにいても聴ける時代。
おかげで、とても楽しい。
ありがとう!素晴らしい!ブラボー!!
、て思ってます。

だけども。

黒い盤が回って、針を落として。
なぜか息を止めてから、ひと息吸う。
「…プツ…ッ…」というわずかな音の後、
音楽が始まる、あの瞬間。

レコード針の先は、ダイヤモンドで
できている、と知ったのはいつだったか。

小さな小さな宝石が、音を拾う。
拾って、音楽を広げてゆくなんて。
なんてロマンチックだったんだろうか、と
思い返すときがあります。

でも、じゃあプレイヤーを買うか、
というと、それは違うな。

あの、息を止める一瞬は、
あの頃のじぶんだけの、もの。
いつか朽ち果てていく記憶だけど、
それでいいな、と。

そんな風に思ったりします。



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